(課題研究成果)<br />ヒト用医薬品の環境動態予測手法の高度化では、ヒト用医薬品の国内処方量と、これまでの調査での全国の河川水中の検出率・検出濃度との相関関係について調べ、相関性が低い医薬品を対象に、代謝物・分解物の存在を調査した。そのうち4医薬品の代謝物・分解物の標準品を購入して分析条件を確立した。過去に採水・前処理を行なった保存試料から128試料を選定し、上記で確立した分析条件を用いて4医薬品の原体・代謝物濃度を測定した。<br />また、産総研-水系暴露濃度予測モデル(AIST-SHANEL Ver.3.0 「250 mメッシュ全国水系版」)を用いて、2018・2019年の河川水中医薬品濃度の予測を行った。全国の負荷量が年間5 t以上で水中半減期が1日以上の医薬品に関しては上記予測モデルを用いて河川中濃度を予測可能であることが示唆された。<br />抗ウイルス薬バラシクロビルとその代謝物のアシクロビル、過去の研究で強い毒性を示した抗血栓薬・抗血小板薬のチクロピジンと類似するクロピドグレルとプラスグレル、中枢性筋弛緩剤エペリゾンと類似するトルペリゾンの計5医薬品を選定し、藻類生長阻害試験、ミジンコ繁殖試験、魚類胚・仔魚期短期毒性試験に供した。3生物ともに、バラシクロビル、アシクロビルの毒性はいずれも弱く、トルペリゾンの毒性やエペリゾンよりはやや弱かった。藻類・ミジンコではクロピドグレルやプラスグレルの毒性はチクロピジンより弱かったが、魚類はトルペリゾンの毒性が10倍程度高かった。また、ニジマスエラ細胞の入手や培養条件など試験プロトコルの確認などの試験系の立ち上げを行った。<br />ヒト用医薬品の総合的な環境リスク評価系構築では、医薬品とその代謝物についての最新の文献や公開レポート等の生態毒性試験結果や医薬品機序情報を収集し、データベースを更新した。データベースの解析の結果、生物毒性試験の実施を判断する基準である環境中予測濃度(PEC)0.01µg/L 未満に予測無影響濃度(PNEC)を有する医薬品が、藻類で全体の0.62%、甲殻類で1.31%、魚類で2.28%含まれ、特に魚類ではステロイド骨格を有する性ホルモン系の医薬品が多かった。さらに、医薬品に対する生態毒性QSARモデルを評価する目的で、KATE 2020 version 3.0及びECOSAR v1.11を用い、甲殻類を対象として参照物質数や決定係数などから適用範囲を検証し、慢性毒性試験の予測値と試験値(実測値)の比較から予測精度を検証した。<br />(分担研究成果)<br />(3)ヒト用医薬品の総合的な環境リスク評価系構築<br />前年度までに構築・更新したヒト用医薬品の水生生物毒性試験データベースは本年度もキュレーションを続けている。その利活用促進に向け、OECD QSAR Toolboxへの提供を提案し、関係各国から承認を得た。OECDが開発し世界的に利用されるOECD QSAR Toolboxは、環境毒性を含む様々なデータが収載された、毒性評価において非常に有用なツールである。本データベースがより広く活用され、リードアクロスや予測モデルの検証などに貢献することが期待できる。<br />2016年に厚生労働省が公表した「新医薬品開発における環境影響評価に関するガイダンス」(現行ガイダンス)の評価フローの生物試験実施の閾値であるaction limitの妥当性を評価した。評価フローでは医薬品を、Log Kow値が3.5以上または未満、環境予測濃度(PEC)がaction limit(0.01µg/L)以上または未満でふるい分け、リスクが懸念される医薬品は生物毒性試験データを用いて評価する。上述のデータベースから藻類、甲殻類、魚類における無影響濃度(NOEC)を抽出して各医薬品の予測無影響濃度(PNEC)を算出し、action limitと比較した。Action limit未満で毒性が懸念される医薬品は非常に少なく、藻類で全体の0.62%、甲殻類で1.04%、魚類で2.28%であった。これはaction limitを5倍(0.05µg/L)に緩和しても、余り増加しなかった。以上から、action limitは十分保守的であると示された。例外として、ステロイド骨格を持つ医薬品でPNEC値がaction limitより低いものが複数見つかったことから、action limitの適用除外を検討する必要が示唆された。<br />次に、PECの妥当性を評価した。医薬品の年間処方量からPECを算出し、環境モニタリングによる実測値と比較した。Action limitの評価対象となった医薬品全てで、現行ガイダンスの方法で算出したPEC値は実測値を上回った。このため、PEC値の算出方法は十分保守的と考えられた。また、PEC値とPNEC値との比較により、評価フローの最終段階である"PEC値の再評価"の必要性がある医薬品を振り分けた。この結果の妥当性についてのより精緻な検討は、引き続き国立環境研究所と共同で遂行する。